レイプ犯の元選手が直面する社会復帰への壁

かつてはマンチェスターシティにも所属、2009年からはシェフィールド・ユナイテッド(当時イングランド2部/3部)で活躍していた元ウェールズ代表ストライカー、チェド・エヴァンズ。


2点目、3点目を挙げるチェド・エヴァンズ(2:05~)

順風満帆に見えた彼のフットボールキャリアでしたが、2011年5月にホテルの一室で19歳の女性をレイプした容疑で逮捕、2012年準強姦罪により、懲役5年の有罪判決を受けました。刑務所内では模範囚であったため、2年半の服役の末、2014年10月に出所。服役中には古巣シェフィールド・ユナイテッド首脳陣との面会で復帰を打診されていましたが、彼の犯した過ちを理由に15万人が契約反対の請願書に署名。

それでもシェフィールドがクラブ施設での個人トレーニングを認めたことで騒動は拡大し、複数の個人スポンサー、企業スポンサーが、”彼と再契約すればスポンサー契約を解除する”とクラブに迫りました。シェフィールド出身でスタジアムのスタンド名にもなっている陸上選手、ジェシカ・エニスは”再契約するなら今後スタンド名に自分の名前を使わせない”と表明。これを受けて彼女はレイプ予告のtweetを送られるなど事態は混沌を極め、結局シェフィールドはエヴァンズから手を引くことになります。

2012ロンドンオリンピック ゴールドメダリストのジェシカ・エニス

その後、イングランド4部などの複数のクラブが彼に関心を寄せますが、同様の”弊害”に悩んだ末、いずれも契約には至らず。マルタ共和国の”ハイバーニアンズFC”からのオファーもありましたが、英司法省は性犯罪者の国外就労を許可していないため、そもそも契約は不可能。

そして2015年1月4日に新たに獲得に名乗りを挙げたのが、イングランド3部のオールダム・アスレティック。クラブの監督は獲得に否定的であったものの、オーナーがエヴァンズの社会復帰への理解を示し、更に彼の話題性を考慮して契約へ前向きであることが報じられています。しかし当然ながらここでも反対運動は即座に起こり、僅か数時間で2万名近くの反対署名を集めています。

性犯罪フットボーラーに社会(ピッチ)復帰の機会は与えらないのか

このニュースはイングランドでは大きな話題を呼んでいます。
その理由として、週給何千、何万ポンドも稼ぐ”フットボーラーという職業”と”性犯罪”の相反する極端な特殊性が挙げられます。犯罪により体と心に傷を負った被害者が存在する一方で、加害者が華美な世界で活躍することに抵抗を感じるのは十分理解できます。特にイングランドのフットボールクラブはファンや地元企業の愛情や信頼によって支えられており、性犯罪に対して寛容になり難い事情もあります。またこうした社会的評価の引き下げも含めて、償いと考えることもできます。

その一方で、彼は服役をしたことで制裁を受け、罪を償ったことは社会的に(少なくとも司法的な解釈としては間違いなく)認められているのです。一般的に犯罪者の社会復帰は困難であり、それ故に再び犯罪に手を染めるというケースは少なくありません。社会復帰の道を閉ざすことで、新たな被害者を生むという考え方も出来ます。

果たして彼はどれだけ罪を償えば良いのでしょうか? 被害者が許してくれるまで? みんなが忘れるまで? それでは余りにも基準が曖昧であるため、司法が存在し罪を裁いています。突き詰めるところ、この反対運動についてはエヴァンズ個人の問題として扱うよりも、根本的な司法の判断基準や性犯罪者の処罰方法にフォーカスしてアクションを起こした方が、より建設的な結論に達するのではないかと考えますが、皆さんはどのような意見をお持ちでしょうか?